2021.02.22【論文紹介】真空熱蒸着法による薄膜から金属ナノ粒子へのリバースエンジニアリング

背景 真空熱蒸着法は多くのアプリケーションで薄膜形成のために一般的に使用されている技術である.この技術を用いて,電子デバイス,光デバイスにおける導電性インクなどの新規技術で使用されている金属ナノ粒子(Nps)の作製を本研究で試みた.また,Npsは医療への応用も期待されている.そのために,Npsの直径制御,安定化,劣化防止,長寿命化のための物理的・化学的な合成プロセスの改善が必要である.   目的・手法 Nps合成の前駆体として純度99%の銅・銀の高純度線材(ニコラ社)を使用.その高純度銅線及び銀線を15mmの長さにモリブデンボートから,PEG(polyethylene glycol)をコーティングしたシャーレに向けて金属を蒸発させ,PEG層上に薄膜を成膜させた.成膜した金属薄膜をエタノール処理,脱酸処理を行い,Npsを得た. 結果 本研究では,真空熱成膜装置によって,数ナノメートルオーダーの金属Npsを合成することに成功した.実験により得られた金属薄膜の膜厚を測定したところ,銀は400nm,銅は200nmであった.これらの金属を超音波および撹拌したところ400nmの銀薄膜は24.3nm,200nmの銅薄膜は50.75nmのサイズの粒子に分解した.この結果より,超音波と撹拌によって数ナノメートルオーダーのナノ粒子が得られることが分かった.   論文情報 タイトル: Reverse Engineering of Thin Films to Nanoparticles by Thermal Deposition for Large-Scale Production of Nanometals ジャーナル:Journal of Nano Research, 61, 42-50 (2020). DOI:10.4028/www.scientific.net/JNanoR.61.42 著者: 氏名 Name 所属 Karthik Paneer Selvam Karthik Paneer Selvam 岡山大学 Zaw Lin Zaw Lin Yangon Technological University 井上寛隆 Hirotaka Inoue […]

2021.02.22【論文紹介】超高速構造ダイナミクスによるカーボンナノチューブ糸/シートのCNT間界面でのフォノン輸送

背景 現代の情報化社会は,集積回路の微細化によって成り立っているが,ナノスケールサイズの集積回路ではリーク電流による発熱が大きな課題となっている.そこで熱・電気伝導特性に優れている,カーボンナノチューブ(CNT)が注目されている.一方で,熱輸送特性に関係するフォノンとキャリア輸送のダイナミクスは未解明である.   目的・手法 CNT糸/シート中のCNT間におけるフォノン・キャリア輸送ダイナミクスを解明するために,超高速時間分解電子回折と超高速光学分光法を用いた.また,CNT糸/シートを通電加熱処理した場合としない場合で比較した.   結果 通電加熱処理を行うことで,CNT糸/シートが電気伝導率を維持したまま,熱伝導率が向上することが明らかになった.これは,CNT間界面でのアモルファスカーボンのグラフェンへの構造変化に起因していると考えられる.この結果は,超高速時間分解電子回折・超高速光学分光法から得られたフォノンの時間的振る舞いと一致する.これは,ナノスケールデバイスでの新たな熱的・電気的特性制御の可能性を示唆している.   論文情報 タイトル: Phonon transport probed at carbon nanotube yarn/sheet boundaries by ultrafast structural dynamics ジャーナル:Carbon , 170, 165-173 (2020). DOI:10.1016/j.carbon.2020.08.026 著者: 氏名 Name 所属 羽田真毅 Masaki Hada 筑波大学 牧野孝太郎 Kotaro Makino AIST 井上寛隆 Hirotaka Inoue 岡山大学 長谷川太祐 Taisuke Hasegawa NIMS 増田秀樹 Hideki Masuda 筑波大学 鈴木弘朗 Hiroo […]

2020.02.12【論文紹介】カーボンナノチューブ紡績糸を用いたフレキシブル熱電発電素子を計算・実験の融合により高効率化

背景 ~界面制御によるフレキシブル熱電変換素子の高効率化~ 温度差によって電気を生み出す熱電発電素子は,火力発電などで利用しにくい100℃以下の温度からでも発電することができるため,身の回りにある様々な廃熱(自動車,工場,体温等)を有効に利用することができます.カーボンナノチューブ紡績糸(Carbon nanotube yarn, CNT yarn)はもともとp型半導体の性質を示し,化学ドーピングにより線材の一部をn型に変えることでn-pペアが形成され,線状の熱電発電素子となります.CNT紡績糸の熱電発電素子は,従来のビスマステルルのような無機材料を利用したものと比較し,軽量・フレキシブルでシンプルな構造であるため,これまでに素子を適用できなかった曲面や可動部にも貼り付けることができ,より応用の幅を広げることが可能となります.CNT紡績糸は無数のCNTによって形成されており,CNTやドープ剤,不純物であるアモルファスカーボン間の界面を制御することが熱電発電効率向上の鍵となります. 目的・手法 本研究では,まず反応経路自動探索法(GRRM)を用いた計算手法によってCNT紡績糸中の物質変化を予測しました.下図は,CNT間に挟まれたアモルファスカーボンが加熱処理によってどのような構造変化をするかを表しており,黒点線は加熱前のsp2カーボン量を示しています.CNTに挟まれていない場合(下図(b))では2500 K以下でほとんど構造変化が起きていませんが,CNTに挟まれた場合(下図(a))には,0.1秒以下でsp2カーボン量が増加(グラフェン化)していることがわかります.この計算による予測をもとに,CNT紡績糸を2000 Kで通電加熱処理を施した後にポリエチレンイミン(PEI)でn型ドーピングを行ない,加熱前後の熱電特性を評価しました. 結果 通電加熱処理前後の熱電特性(ゼーベック係数,導電率,パワーファクター)を下図に示します.通電加熱処理によりp型のゼーベック係数が向上(100 μV/K)し,PEIによるドーピング後にはn型のゼーベック係数も大幅に向上(-100 μV/K)していました.このゼーベック係数の値は,p型,n型ともにフレキシブル熱電発電素子の中でもトップレベルの数値となっています.熱電発電特性の変化は,ラマン測定により計測されるsp2カーボン由来のGバンドとsp3カーボン由来のDバンドとの強度比(G/D比)と相関があることがわかります((d)~(f)).半導体のゼーベック係数はフェルミエネルギー近傍の状態密度の微分に比例することが知られており,グラフェンフレークの増加に伴ってCNT紡績糸のゼーベック係数が増加するものだと考えられます.本成果は,計算によって予測した効果的なsp2カーボンの増加条件がデバイス特性に繋がった結果となっており,計算による予測と実験による検証が融合したからこそ得られた知見です.界面制御分野,デバイス開発分野のみでなく,近年注目されているマテリアルインフォマティクス分野においても重要な成果となります. 論文情報 タイトル:One-Minute Joule Annealing Enhances the Thermoelectric Properties of Carbon Nanotube Yarns via the Formation of Graphene at the Interface ジャーナル:ACS Applied Energy Materials 2 (10), 7700-7708 (2019). DOI: 10.1021/acsaem.9b01736 著者: 氏名 Name 所属 羽田 真毅 Masaki Hada 筑波大学 長谷川 太祐 […]

2020.02.05【論文紹介】高分子線材とカーボンナノチューブ紡績糸を組み合わせたマルチフィラメント型ソフトアクチュエータを開発

背景 ~コイル状高分子ソフトアクチュエータへの効率的な熱エネルギー投入~ ナイロンなどの安価な高分子線材を捻ってコイル形状にした線材は,加熱で収縮,冷却で伸長するという動作を示し,さらに軽量でエネルギー効率が高く繰り返し動作にも優れていることから,介護や重量物運搬作業を補助するパワードスーツなどへの応用展開が期待されています.高分子線材ソフトアクチュエータのエネルギー源となる”熱”を与える方法として温風や金属のヒータ線等を利用するといった方法が考えられますが,装置が大掛かりになり,系全体としてコイル状高分子線材が本来持っている軽量性,柔軟性,高伸縮性といった特性が損なわれてしまうという問題がありました. Video from the University of Texas at Dallas 目的・手法 本研究では, コイル状高分子線材ソフトアクチュエータの軽量性,柔軟性,高応答性を損なわず,効率的に熱エネルギーを供給する構造を実現させることを目的としました.熱エネルギーを与える手法として,軽量・柔軟で繰り返し曲げ動作に強いカーボンナノチューブ紡績糸(Carbon nanotube yarn, CNT yarn)をヒータ線として利用することを提案します.CNT紡績糸は,低電圧(~20 V)で十分な熱(~200 ℃)を発生させるための適度な導電性を持ち,また高熱伝導性を有することから伸長時の急速な放熱も期待できます.Φ20μmの高分子繊維(ポリエチレンテレフタレート: PET)と,同径のカーボンナノチューブ紡績糸を複数本ずつ束ねることによって,マルチフィラメント型の線状ソフトアクチュエータを作製しました.またこの際,PET線材とCNT紡績糸の組み合わせ方を変えた3種類の構造を作製し,構造の違いによるアクチュエータ特性について比較しました. 結果 電力変化させた際の発生力の変化を左図に示します.200 mW≒100℃までは,アクチュエータ発生力がほぼリニアに上昇しており,これは実用する際に電力によって発生力・伸縮量を容易に制御できることを示しています.右図は3種類の構造それぞれの発生力試験結果です.ここで,エラーバーは100回の繰り返し動作の際のバラツキを示しています.ヒータ線であるCNT紡績糸が線材断面に均一に配置しているマルチフィラメント構造を持った「Multi-A」と「Multi-B」は,「Mono」より1.5倍程度高い発生力が得られ,また応答性も向上していることを確認しました.本構造の熱拡散シミュレーションを実施した結果,均一に熱源を組み込むことで加熱時及び冷却時に,線材全体に渡って均一で急速な熱拡散が起こり,これが高発生力・高応答性に繋がることを示しました.今後は,応答性や動作効率の核となる高分子材料自体の種類や構造の検討を進め,実用に耐えうる線状ソフトアクチュエータの開発を進めていく予定です. 論文情報 タイトル:High-performance structure of a coil-shaped soft-actuator consisting of polymer threads and carbon nanotube yarns ジャーナル:AIP Advances (IF=1.653) 8, 075316 (2018). DOI:10.1063/1.5033487 著者: 氏名 Name 所属 井上 寛隆 Hirotaka Inoue 岡山大学 吉山 […]

2020.02.04【論文紹介】紡績可能なカーボンナノチューブアレイの構造を特定

背景 ~乾式紡績性カーボンナノチューブの構造特定および高物性化~ 乾式紡績法により作製されるカーボンナノチューブ紡績糸(Carbon nanotube yarn, CNT yarn)は,細くて長い,つまりアスペクト比の高いCNTで構成するほど強度や導電性といった物性が向上します.しかし,アスペクト比の高いCNTほど紡績性を発現させることが難しいことが分かっており,その原理解明及び紡績性を改善し得る合成パラメータの特定が求められていました. 目的・手法 本研究では, CNTアレイ構造と紡績性との関係を明らかにすることを目指しました.従来,紡績可、不可の2値で議論されてきたCNTアレイの紡績性について,アレイからCNTを紡績する際の引出幅変化を,紡績性の評価パラメータとして新規に定義することによって,定量的な評価・比較を実施しました. 結果 CNTアレイの高さと嵩密度に対する紡績性をカラースケールで示したグラフが以下の図になります.本グラフより,紡績性を発現させるためには,長尺で高密度なCNTアレイが重要であることが明確になりました.これはCNTバンドル間の絡み合いが,高さ・嵩密度によって大きく影響されることが原因だと考えられます.また触媒粒子形成プロセスにおける各種合成パラメータを調整することで,高さ・嵩密度を向上させつつ細径のCNTを成長させられることを示しました.本成果は,将来の紡績性CNTアレイの大量生産や,選択的な構造制御をする際に重要な知見になると考えられます. フロントカバー 本研究成果をモチーフにしたイラストが,Carbon 158巻のフロントカバーイラストに選ばれました. 論文情報 タイトル:The critical role of the forest morphology for dry drawability of few-walled carbon nanotubes ジャーナル:Carbon (IF=7.466), 158, 662-671 (2020). DOI:10.1016/j.carbon.2019.11.038 著者: 氏名 Name 所属 井上 寛隆 Hirotaka Inoue 岡山大学 羽田 真毅 Masaki Hada 筑波大学 中川 智広 Tomohiro Nakagawa 岡山大学 […]