2020.02.05【論文紹介】高分子線材とカーボンナノチューブ紡績糸を組み合わせたマルチフィラメント型ソフトアクチュエータを開発

背景 ~コイル状高分子ソフトアクチュエータへの効率的な熱エネルギー投入~

ナイロンなどの安価な高分子線材を捻ってコイル形状にした線材は,加熱で収縮,冷却で伸長するという動作を示し,さらに軽量でエネルギー効率が高く繰り返し動作にも優れていることから,介護や重量物運搬作業を補助するパワードスーツなどへの応用展開が期待されています.高分子線材ソフトアクチュエータのエネルギー源となる”熱”を与える方法として温風や金属のヒータ線等を利用するといった方法が考えられますが,装置が大掛かりになり,系全体としてコイル状高分子線材が本来持っている軽量性,柔軟性,高伸縮性といった特性が損なわれてしまうという問題がありました.


Video from the University of Texas at Dallas

目的・手法

本研究では, コイル状高分子線材ソフトアクチュエータの軽量性,柔軟性,高応答性を損なわず,効率的に熱エネルギーを供給する構造を実現させることを目的としました.熱エネルギーを与える手法として,軽量・柔軟で繰り返し曲げ動作に強いカーボンナノチューブ紡績糸(Carbon nanotube yarn, CNT yarn)をヒータ線として利用することを提案します.CNT紡績糸は,低電圧(~20 V)で十分な熱(~200 ℃)を発生させるための適度な導電性を持ち,また高熱伝導性を有することから伸長時の急速な放熱も期待できます.Φ20μmの高分子繊維(ポリエチレンテレフタレート: PET)と,同径のカーボンナノチューブ紡績糸を複数本ずつ束ねることによって,マルチフィラメント型の線状ソフトアクチュエータを作製しました.またこの際,PET線材とCNT紡績糸の組み合わせ方を変えた3種類の構造を作製し,構造の違いによるアクチュエータ特性について比較しました.

結果

電力変化させた際の発生力の変化を左図に示します.200 mW≒100℃までは,アクチュエータ発生力がほぼリニアに上昇しており,これは実用する際に電力によって発生力・伸縮量を容易に制御できることを示しています.右図は3種類の構造それぞれの発生力試験結果です.ここで,エラーバーは100回の繰り返し動作の際のバラツキを示しています.ヒータ線であるCNT紡績糸が線材断面に均一に配置しているマルチフィラメント構造を持った「Multi-A」と「Multi-B」は,「Mono」より1.5倍程度高い発生力が得られ,また応答性も向上していることを確認しました.本構造の熱拡散シミュレーションを実施した結果,均一に熱源を組み込むことで加熱時及び冷却時に,線材全体に渡って均一で急速な熱拡散が起こり,これが高発生力・高応答性に繋がることを示しました.今後は,応答性や動作効率の核となる高分子材料自体の種類や構造の検討を進め,実用に耐えうる線状ソフトアクチュエータの開発を進めていく予定です.

論文情報

タイトル:High-performance structure of a coil-shaped soft-actuator consisting of polymer threads and carbon nanotube yarns
ジャーナル:AIP Advances (IF=1.653) 8, 075316 (2018).
DOI:10.1063/1.5033487

著者:

氏名Name所属
井上 寛隆Hirotaka Inoue岡山大学
吉山 貴之Takayuki Yoshiyama岡山大学
羽田 真毅Masaki Hada岡山大学(現 筑波大学)
中條 大樹Daiki Chujo岡山大学
齋藤 慶考Yoshitaka Saito東京工業大学
西川 亘Takeshi Nishikawa岡山大学
山下 善文Yoshifumi Yamashita岡山大学
宝田 亘Wataru Takarada東京工業大学
松本 英俊Hidetoshi Matsumoto東京工業大学
林 靖彦Yasuhiko Hayashi岡山大学

 

 

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